2022年12月に開催予定のIEDMのロゴマーク。略称は「IEDM 2022」
前年に続きリアルとバーチャルのハイブリッドで開催
 半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting、通常の呼称は「アイイーディーエム」、日本語の通称は「国際電子デバイス会議」)」が、米国サンフランシスコ(カリフォルニア州)で2022年12月3日~7日に開催される。昨年(2021年)に続き、リアルとバーチャルのハイブリッドイベントとなる。リアルイベントの会場は昨年と同じ、ヒルトン・サンフランシスコ・ユニオンスクエアホテルである。バーチャルイベント、すなわちインターネット経由で講演の動画を視聴するオンデマンドは、12月12日に始まる。
 リアルイベントの基本的なスケジュールは、コロナ禍以前と変わらない。始めの2日間は、プレイベントとして技術講座を予定する。技術講座の参加登録は、メインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)とは別料金なので注意されたい。具体的には12月3日が「チュートリアル」と呼ぶ1件ずつのテーマ別講演、同月4日が「ショートコース」と呼ぶ共通テーマに基づく複数の講演で構成される。チュートリアルとショートコースの参加登録は、これも別々である。
IEDM 2022の位置付けと全体構成。1947年にトランジスタが発明されてから、「75周年」であることを意識した。オンデマンドによる講演動画の視聴は、リアルイベントの約1週間後に始まる
IEDM 2022の基本スケジュール。12月3日~4日がプレイベント(別料金)、12月5日~7日がメインイベント
 後半の3日間がメインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)となる。初日である5日の午前は、恒例のプレナリーセッションを予定する。チェアパーソンによる挨拶と基調講演、記念賞の授与式などを実施する。
 プレナリー講演(基調講演)は3件で、前年と件数は変わらない。初めの講演テーマは「トランジスタ生誕75周年と半導体の今後」、次の講演テーマは「イメージング技術とセンシング技術による身体の拡張」、最後の講演テーマは「不良が発生しても止まらない量子コンピュータ」である。
プレナリー講演のタイトル一覧と講演者の一覧。プログラムと公式ウェブサイトから筆者がまとめたもの
220件を超える研究開発成果を2日半で発表
 12月5日の午後から12月7日の夕方までは、技術講演会である。技術講演の発表件数は220件を超える。技術講演はテーマ別のセッションに分かれており、全体では35個と多くのセッションがある。
 35個のセッションを2日半で実施するため、同時並行で複数のセッションが進む。5日の午後は8個のセッション、6日の午前は8個のセッション、6日の午後は7個のセッション、7日の午前は7個のセッション、7日の午後は5個のセッションを予定する。以下の表は時間帯別のセッション名およびセッション番号である。なお、6日の夜にはパネル討論会(セッション25)が開催される。
12月5日午後の講演セッション一覧(セッション2~セッション9)。IEDM 2022のプログラムから筆者が抜粋したもの
12月6日午前の講演セッション一覧(セッション10~セッション17)。IEDM 2022のプログラムから筆者が抜粋したもの
12月6日午後の講演セッション一覧(セッション18~セッション24)。IEDM 2022のプログラムから筆者が抜粋したもの
12月6日夜のパネル討論会(セッション25)の概要。IEDM 2022のウェブサイトから筆者が抜粋したもの
12月7日午前の講演セッション一覧(セッション26~セッション32)。IEDM 2022のプログラムから筆者が抜粋したもの
12月7日午後の講演セッション一覧(セッション33~セッション37)。IEDM 2022のプログラムから筆者が抜粋したもの
強誘電体トランジスタ型メモリの寿命が10の9乗サイクルに向上
 ここからは、注目すべき研究開発成果を紹介しよう。分野別に「メモリ」、「ロジック」、「イメージセンサー」、「通信」、「パワーデバイス」の順番で説明していく。なおIEDM 2022は盛りだくさんで、事前にご紹介したい注目講演があまりに多い。そこで今回は「メモリ」までとし、「ロジック」以降は本コラムの次回でご説明する。どうかご容赦願いたい。
 本題に戻ろう。「メモリ」分野では、「強誘電体メモリ」と「磁気抵抗メモリ」、「次世代不揮発性メモリ」の注目講演を挙げる。
 「強誘電体メモリ」では、Intelが次世代DRAMの置き換えを想定した強誘電体メモリ技術を展望する(講演番号6.7)。スイッチング時間が2nsと短く、読み書き寿命が10の12乗サイクルとかなり長いFeRAM(1T1C方式)の研究成果を述べる。プログラムに記載された上記の数値は昨年のIEDM 2021と変わらない。何らかの進展があるものと期待される。
 北京大学などの研究グループは読み書き寿命が5×10の9乗サイクルと長い強誘電体FET(FeFET)メモリを試作した(講演番号6.2)。データ保持期間は10年以上を確保した。ゲート絶縁膜にハフニウム酸化物強誘電体膜とアルミナ膜の積層構造を採用し、長期信頼性を高めた。
 シンガポール国立大学は、多層配線と互換の40nmプロセスで強誘電体FET(FeFET)を試作し、極めて低い界面準位密度と大きなメモリウィンドウ、理想に近いサブスレッショルドスイングを確認した(講演番号6.1)。不揮発性ロジックへの応用が期待できるとする。
強誘電体メモリ技術の注目講演。プログラムと報道機関向け資料から筆者がまとめたもの
ワーキングメモリを想定した低消費の長寿命MRAM技術
 「磁気抵抗メモリ」では、Samsung Electronicsがエネルギー消費を減らした埋め込みMRAM技術を発表する(講演番号10.7)。ワーキングメモリとして埋め込みSRAMの置き換えを目指す。28nmプロセスで16Mbitの埋め込みMRAMマクロを試作した。書き込みエネルギーは1ビット当たりで25pJと少ない。データ転送速度54Mバイト/秒の読み出し消費電力は14mW、書き込み消費電力は27mWと低い。書き換え寿命は10の14乗サイクルとかなり長い。
 IBM Researchは、ダブルスピントルク方式の磁気トンネル接合(MTJ)を開発し、300ps(0.3ns)と短いスイッチング時間を確認した(講演番号10.2)。ラストレベルキャッシュ(LLC)への応用を想定している。
 SK hynixと韓国キオクシアは共同で、1個のセレクタと1個のMTJでメモリセルを構成するクロスポイントメモリ技術を開発した(講演番号10.1)。MTJのピッチは45nm、MTJの大きさは20nmと狭い。セレクタの材料はAsドープのSiO2膜である。
磁気抵抗メモリ(MRAM)技術の注目講演。プログラムと報道機関向け資料から筆者がまとめたもの
128値のマルチレベルReRAMをキーワード認識チップに利用
 「次世代不揮発性メモリ」ではApplied MaterialsとUniversity of Michiganが共同で、128値のしきい電圧(7bit相当)を記憶する抵抗変化メモリ(ReRAM)技術を公表する(講演番号18.4)。しきい電流はμAレベルと低い。65nmのCMOS技術によってReRAMを埋め込んだキーワード認識用SoC(System on a Chip)を試作してみせた。キーワード認識(キーワードスポッティング)の精度はソフトウェア処理と同等だとする。
 Macronix InternationalとIBMの共同研究チームは、相変化メモリの記憶素子とセレクタを組み合わせた256Kbitのクロスポイントメモリを試作した(講演番号18.5)。相変化メモリには新しい材料を採用したとする(組成は未公表)。セレクタの材料はインジウム(In)をドープしたヒ素セレンゲルマニウム(AsSeGe)化合物である。書き換え寿命は10の7乗サイクル。
次世代不揮発性メモリの注目講演。プログラムと報道機関向け資料から筆者がまとめたもの
 「ロジック」、「イメージセンサー」、「通信」、「パワーデバイス」の注目講演は、機会を改めて本コラムの次回にご紹介する。しばらくお待ちいただけるとありがたい。

急落する半導体メモリ価格

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関連リンク IEDMの公式ウェブサイト(英文)

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投稿者 chintablog

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