Snapdragon 855
 Qualcommはアメリカ合衆国ハワイ州マウイ島において、プライベートテックイベントSnapdragon Tech Summitを12月4日~12月6日(現地時間)の3日間にわたって開催している。2日目は初日の基調講演で発表された次世代SoC「Snapdragon 855」の技術的なスペックなどを公開した。
 Snapdragon 855は、CPUのKryo 485、GPUのAdreno 640、DSPのHexagon 690、ISPのSpectra 380、4GモデムのSnapdragon X24 LTE modemから構成されているSoCだ。CPU/GPU/DSPからなる第4世代のAIエンジンを搭載しており、前世代に比べて3倍のAI性能を実現している。
 また、無線関連ではWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に対応しているほか、WiGig(IEEE 802.11ad)の新しい規格となるIEEE 802.11ayが使えるなどの特徴を備えている。
A76ベースカスタムのKryo 485は45%性能が向上、GPU/DSPと併せてSoC全体で7TOPSのAI性能を実現
 Qualcommが発表した新しいSnapdragon 855は、前世代となるSnapdragon 845となる後継製品で、CPU、GPU、DSPなど全般にわたって手が入れられており、大規模なアップデートとなっている。

【表1】Qualcommのハイエンド向けSoC

Snapdragon 855

Snapdragon 845

Snapdragon 835

Snapdragon 820

Snapdragon 810

Snapdragon 805

Snapdragon 800

CPU

Kryo 485(8コア)/64bit

Kryo 385(8コア)/64bit

Kryo 280(8コア)/64bit

Kryo(4コア)/64bit

Cortex-A57/53(8コア)/64bit

Krait 450(4コア)/32bit

Krait 400(4コア)/32bit

GPU

Adreno 640

Adreno 630

Adreno 540

Adreno 530

Adreno 430

Adreno 420

Adreno 330

DSP

Hexagon 690

Hexagon 685

Hexagon 682

Hexagon 680

Hexagon DSP

ISP

Spectra 380

Spectra 280

Spectra 180

2xISP

システムキャッシュ

5MB

3MB

モデム(CAT、下り)

X24(CAT20, 2Gbps)

X20(CAT18, 1.2Gbps)

X16(CAT16, 1Gbps)

X12(CAT13, 600Mbps)

X10(CAT9, 450Mbps)

X7(CAT6, 300Mbps)

n/a

プロセスルール

7nm

10nm(Samsung 10nmLPP)

10nm(Samsung 10nmLPE)

14nm

20nm

28nm

発表

2018年Q4

2017年Q4

2016年Q4

2015年Q4

2014年Q2

2013年Q4

2013年Q1

おもな搭載製品の出荷

2019年1H(予定)

2018年1H(予定)

2017年1H

2016年

2015年

2014年

2013年
Kryo 485の仕組み
Kryo 485のスペック
 CPUとなるKryo 485は、ArmのCortex A76ベースのカスタムデザインになっており、8コアだがコアは3つの部分に分かれている。
 1つはプライムコアと呼ばれる最大2.84GHzまでクロックが引き上げられるシングルコア。2つ目はパフォーマンスコアと呼ばれる最大2.42GHzになる3コア。3つ目は1.8GHzまで引き上げられる1.8GHzの4コアとなっている。
 ただし、プライムコアとパフォーマンスコアは同じ電力供給下で動くという仕組みだ。Qualcommは明言していないが、ArmのDynamIQベースの動作だと思われる。また前世代(Snapdragon 845のKryo 385)から搭載されているシステムキャッシュも3MBから5MBへと増やされている。メモリはLPDDR4xに対応しており、最大で2,133MHzで動作する。
 これらの改良によりCPUの性能は従来世代のSnapdragon 845に搭載されていたKryo 385と比較して45%性能が向上しているという。
Adreno 640
CPUの性能向上は45%、GPUは20%
 GPUはAdreno 640となり、内蔵FPのALUが50%増えており、前世代に比べて性能が20%向上するという。対応するAPIとしてOpenGL ES 3.2、OpenCL 2.0 FPに加えて、モバイル向けのGPUとしては初めてVulkan 1.1に対応している。
 また、HDR10+、HDR10、HLG、Dolby VisionなどのHDRの各規格もサポート。H.265/VP9のハードウェアデコーダを搭載しており、H.265やVP9に対応した動画を再生するときに、より低い消費電力で再生することができる。
Hexagon 690 Processor
 DSPとなるHexagon 690 Processorは、従来から内蔵されているスカラーエンジン、ベクターエンジンがそれぞれ前世代に比較して1.2倍、2倍に強化されている。さらに今回の世代から新しくHexagon Tensor Acceleratorと呼ばれるTensor演算のアクセラレータが用意されており、深層学習(ディープラーニング)の推論を専門に行なうエンジンが用意されている。
 Qualcommでは以前よりAI関連の処理は、CPU/GPU/DSPをまとめて扱うソフトウェアを提供することで行なってきたが、そうしたAIのエンジンが第4世代に進化して、より性能が上がっている。
 CPUはFP32とINT8、GPUでFP32とFP16、そしてDSPではINT16とINT8を混在して扱えるようになっており、それらをソフトウェアのランタイムがリアルタイムに最適なハードウェアに割り当てながら処理していく仕組みになっている。
QualcommのAIは複数のエンジンをヘテロジニアスに使って処理していく
AI性能は前世代に比べて3倍、Kirin 980に比べて2倍
 これにより、Snapdragon 855はAI性能は7TOPSを実現しており、前世代のSnapdragon 845に比較して3倍になっており、7nm世代のAndroid向け他社製SoC(HUAWEIのKirin 980)に比べて2倍の性能を実現していると説明している。
オプションチップと合わせて5Gに対応、Wi-Fi 6/IEEE 802.11ayなどの新Wi-Fiに対応
5Gのデザイン
 Snapdragon 855は5Gに対応している。ただし、5Gは外付けのモデムチップとなるSnapdragon X50 5G modemと組み合わせて実現される。
 Snapdragon X50 5G modemは、5Gのみに対応したシングルモードのモデムになっており、4G以前との互換性はSnapdragon 855に内蔵されているSnapdragon X24 4G modem(Cat20対応、下り最大2Gbps)により実現される。このため、OEMメーカーは4Gのみ必要ならSoC単体で実装すればいいし、5Gが必要な場合にはSnapdragon X50 5G modemを別途搭載するというかたちでデザインを分けることができる。
 なお、Qualcommでは無線周りを、RF、そしてRFフロントエンド、アンテナを1つのモジュールとして提供しており、ミリ波の5G向けには「QTM052」という1モジュールで提供しており、OEMメーカーが簡単にミリ波の5Gアンテナを実装できるようにしている。
Wi-Fi 6に対応
 セルラー以外の無線も強化されている。最大の特徴はWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に標準で対応していることだ。現在はドラフトとしての搭載になるが、将来規格が固まれば正式対応が謳われることになるだろう。
 QualcommのSoCはいわゆるWiGigで知られる超広帯域通信のIEEE 802.11adに対応していたが、今回のSnapdragon 855ではその上位規格となるIEEE 802.11ayに対応している。IEEE 802.11ayはWiGigと同じく60GHzで通信するが、通信方式などの改善などにより、最大で176Gbpsの通信速度を実現する。
 これによりWiGigでは対応することが難しかった4Kディスプレイのワイヤレス化などが期待される。なお、Qualcommのスペックでは10Gbpsまでの対応となっている。
ISPのSpectra 380はCVのハードウェア処理に対応
 また、カメラで撮影した静止画や動画の処理を行なうISP(Image Signal Processor)もSpectra 380に強化されている。
 デュアルパイプであることに変化はないが、新しくハードウェアのCV(Computer Vision)エンジンが内蔵。複数の物体認識、複数の物体追尾、物体の分類、60フレームの深度認識、6DoFの動体追尾、画像安定化などの処理がCVエンジンを利用して行なうことができ、かつそれらの処理にCPUやGPU、DSPなどを使う必要がなくなるため、消費電力を削減できる。
 また、HDRの処理も強化されており、ポートレートモードで4K60 HDRの動画を処理可能。HEIFにも対応している。
 Snapdragon 855は7nmプロセスルールに基づいて生産され、ファウンダリはTSMC。すでにOEMメーカーに対してサンプル出荷が開始されており、2019年の前半にSnapdragon 855を搭載した商用製品が市場に投入される見通しだ。

関連リンク Qualcommのホームページ(英文)

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投稿者 chintablog

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