米マサチューセッツ工科大学(MIT)は9月27日(現地時間)、RFID(Radio Frequency Identifier)タグにペロブスカイト太陽電池(セル)を組み込むことで、室内灯での長期間駆動や通信距離拡大を可能にするとともに、安価な製造も見込める技術を提唱した。
リアルタイムにインフラや環境からデータ収集するIoTセンサー機器の数は、2025年には750億台にも達すると言われているが、現状ではそうしたセンサーにはバッテリが必要で、頻繁な交換により長期期間のモニタリングに不都合が出ると言われている。
MITの研究者らはこの問題への対処を期待できるものとして、ペロブスカイト太陽電池の活用を挙げている。ペロブスカイト太陽電池は薄いフィルム状で低コスト、柔軟性と透過性があり、設計が容易という特徴を備え、さらに太陽光だけでなく室内灯でも電力を得ることができる。これにより、センサー類を屋内でも長期稼働可能なことから、サプライチェーンにおける貨物のトラッキング、土壌モニタリング、ビル/家屋のエネルギー使用のモニタリングなどに有用とする。
最近ではソーラーセルをIoTセンサーに活用する試みが行なわれているが、ソーラーセルは太陽光発電が必要で、室内灯では十分な電力が得られず、センサー類には不向きとする。また、ソーラーセルはかさばる上、製造が高価であり、柔軟性や透過性もない。
今回、MITの研究者らは、ペロブスカイト太陽電池とRFIDタグを組み合わせる技術を提唱。電池を内蔵しないタイプのRFIDタグではリーダ(読み取り装置)側の電波を使って動作するが、通信距離は1m以下と短いほか、タグを1つ1つ読み取る必要がある。一方で、RFIDタグにペロブスカイト太陽電池を組み合わせることで、電池を備えずとも通信距離を5倍まで延ばすことが可能。通信距離が増えることで、1つのリーダで複数のRFIDタグから同時にデータを取得するといったことができるようになる。
このRFIDタグはプラスチックの回路基板からなり、直接ペロブスカイト太陽電池が接続されている。このセルには、電極、陰極、特殊な電子移動層材料の間にはさまれたペロブスカイト材料で層状に作られており、電力効率は約10%と実験段階のものとしてはかなり高い。また、この層構造によって各々のセルのバンドギャップを最適に調節することができ、照明に応じた電子移動の特性を持たせることが可能。製造コストも3~5セントと低価格で、透過性も高くさまざまな場所に貼りつけて使うことができる。
今回試作されたRFIDタグには温度を監視するセンサーのみ搭載されているが、今後さらに規模を拡大し、湿度/圧力/振動/汚染機能を組み合わせた環境モニタリングセンサーの追加が想定されている。また、プリントエレクトロニクスを使うことで、より低コストに無線センサーを製造する方法も考えられている。
関連リンク マサチューセッツ工科大学のホームページ ニュースリリース(英文)
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