Snapdragon 8cx、Snapdragon 8c、Snapdragon 7c
 Qualcommは、米ハワイ州マウイ島において「Snapdragon Tech Summit 2019」を12月3日~5日(現地時間)の3日間にわたり開催した。初日(12月3日)には同社のプレミアム・スマートフォン向けSnapdragon 865、ミッドレンジ向けSnapdragon 765/765Gを発表(関連記事:Qualcomm、ハイエンドスマホの性能を25%押し上げる「Snapdragon 865」]したほか、2日目(12月4日)にはその詳細を明らか(関連記事:Snapdragon 865の詳細が判明。CPU/GPUアーキテクチャ強化で、新しいTensorアクセラレータも搭載)にした。
 最終日となる12月5日には、昨年(2018年)発表したArm版Windows向けのSoCとなるSnapdragon 8cxのバリエーションとして「Snapdragon 8c」、さらに廉価版の「Snapdragon 7c」を発表した。
Surface Pro Xなどに採用されたことで注目が高まるSnapdragon
 昨年発表されたSnapdragon 8cxは、CPUにKryo 495、GPUにAdreno 680を採用しており、とくにGPUがスマートフォン向けのSoCに比べて大きく強化されていて、Microsoftが提供しているArm版Windows 10と組み合わせて、PC市場における新しいプラットフォームの選択肢として注目を集めている。さらに、これをベースとし、より高クロックで動作する「Microsoft SQ1」を搭載した「Surface Pro X」をMicrosoftが発表するなど、じょじょに市場で採用が進んでいる。
 Arm版Windows 10では、32bitのx86命令をArm命令にバイナリトランスレーションする機能を標準で搭載しており、Arm命令のソフトウェアだけでなく、32bitのx86命令のWindowsアプリケーションをそのまま実行できるので、現在x86のWindows 10を利用しているユーザーも容易に乗り換えることができる。かつ、x86プロセッサに比べると平均消費電力が総じて低く、同じバッテリ容量であればより長時間駆動を実現できる。
Snapdragon 8cx(およびMicrosoft SQ1)を搭載したデバイス
Snapdragon 8cx
 QualcommはこのSnapdragon 8cxをプレミアム向けと位置づけており、1,000ドルを超えるようなPCに採用されることを見込んでいる。一方、その1世代前のSnapdragon 850をメインストリーム市場向けと位置づけてきた。
 今回発表されたSnapdragon 8cは、そのSnapdragon 850を置き換え、メインストリーム製品向けと位置づける。
 また、もう1つのSnapdragon 7cは、これまでPC向けのSnapdragonでは存在していなかったエントリー向け製品になる。
メインストリーム向けのSnapdragon 8c、エントリー向けのSnapdragon 7c
Snapdragon 8cx、8c、7cの位置づけ
 Snapdragon 8cx、Snapdragon 8c、Snapdragon 7cのスペックは以下のようになっている。

【表1】Snapdragon 8cx、8c、7cのスペック(Qualcommの発表より筆者作成)

Snapdragon 8cx

Snapdragon 8c

Snapdragon 7c

CPUブランド名

Kryo 495

Kryo 490

Kryo 468

CPUベースデザイン

Cortex-A76(4コア)+Cortex-A55(4コア)

8コア

8コア

CPU LLC

10MB

?

?

GPUブランド名

Adreno 680

Adreno 675

Adreno 618

メモリバス幅

8x16bit

4x16bit

2x16bit

メモリ種類/データレート

LPDDR4x/2,133MHz

LPDDR4x/2,133MHz

LPDDR4/2,133MHz

帯域幅

約68.3GB/s

約34.15GB/s

約17GB/s

DSP

Hexagon 685

Hexagon 690

Hexagon 692

ISP

Spectra 390

Spectra 390

Spectra 225

モデム

X24(CAT20, 2Gbps)

X24(CAT20, 2Gbps)

X24(CAT15, 150Mbps)

ストレージ

NVMe/UFS3.0

NVMe/UFS3.0

eMMC/UFS 3.0

PCI Expressコントローラ

Gen3

?

製造プロセスルール

7nm

7nm

8nm
Snapdragon 8c
 Snapdragon 8cは7nmで製造され、CPUは8コアのKyro 490、GPUはAdreno 675と、ブランド名がSnapdragon 8cxのCPUであるKryo 495、Adreno 680から-5した数字になっている。原稿執筆時点では確定情報はないのだが、公開されたSnapdragon 8cの外形は8cxとまったく同じだったので、おそらく同じダイだが、機能が制限されたり、クロック周波数が引き下げられているバージョンだと理解するのが正しいだろう。
 もう1つの大きな違いはメモリ周りで、8cxは8x16bitのLPDDR4x/2,133MHzとなっているが、8cは4x16bitのLPDDR4x/2,133MHzとなっている。メモリ帯域幅は半分となるので、それに従ってGPUの性能も制限されることになる。おそらくその2つが8cの性能が8cxよりも低くなる要因と言える。
Snapdragon 7c
 これに対してSnapdragon 7cは、8nm(ファウンドリは非公開)で製造されCPUは8コアのKryo 468、GPUはAdreno 618となっている。CPUとGPUの詳細は公開されていないのでわからないが、公開されたパッケージを見るかぎり、ダイは明らかに8cx/8cとはサイズが異なっているので、こちらは完全に別チップであると考えられる。
 なお、メモリは2x16bitのLPDDR4となっているので、メモリの帯域幅は8cxの4分の1となり、かつストレージも8cxと8cがPCI ExpressでNVM ExpressのSSDが利用できるのに対して、7cはeMMCないしはUFSのみのサポートとなる。この点でも明確に廉価版と位置づけられている。
 今回Qualcommは性能について7cの数字は競合(Intelと見られる)との比較、8cは自社製品のSnapdragon 850との比較とややわかりにくい数字しかアナウンスしなかったが、AI性能としてSnapdragon 8cxは9TOPS、8cは6TOPS、7cは5TOPSと明らかにしており、これが1つの性能の指標ということになるだろう。
Zoomが64bit Armネイティブなビデオカンファレンスアプリを提供予定と発表
Zoomが64 bitArmネイティブに対応したWindows用アプリケーションの提供意向を表明
 すでに説明したとおり、Arm版Windows 10では32bitのx86アプリケーションは、標準のバイナリトランスレーションの機能により実行できるが、64bitのx86(いわゆるx64)アプリケーションに関しては実行できない。このため、本格的にArm版Windowsが普及するためには、64bitのArmネイティブなアプリケーションを、アプリケーションベンダーに供給してもらうことが重要になる。
 Adobeは将来的に、64bit Arm版のCreative Cloudアプリケーションを提供する意向を明らかにしているが、これまではFirefoxが唯一の64bit Armネイティブなアプリケーションだった。
 今回のSnapdragon Tech Summit 2019では、ビデオカンファレンスソフトウェアのZoomが64bit Armネイティブなアプリケーションを提供する計画を明らかにしたほか、MicrosoftのChromiumベースのEdgeのCanary Build(かなり初期のベータバージョン)において64bit Armネイティブ版を提供開始したことを明らかにした。
 64bit Armネイティブなアプリケーションの提供を表明するベンダーもじょじょに増えており、Snapdragon 8c、Snapdragon 7cなど廉価版のSoCを搭載したPCが市場に登場すると、ユーザーの母数が増えることになるため、アプリケーションベンダーもx64版に加えてArm版の提供を検討していくことも増えていくことになる可能性がでてくる。

関連リンク Qualcommのホームページ(英文)

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投稿者 chintablog

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