CPU/GPU/DSPが強化された「Snapdragon 888」
QualcommのSnapdragon 888を搭載したリファレンスデザインのスマートフォン(QRD 8350-DVT2.1 MCN-65-PP484-211C)
 Qualcommは12月17日(現地時間)、12月初旬に発表したハイエンド向けSoC「Snapdragon 888」の性能に関する情報を明らかにした。
 Snapdragon 888は、今年(2020年)日本で販売が開始された5Gスマートフォンの多くに採用されているSnapdragon 865の後継品。以下の記事で詳しく触れているが、Snapdragon 888はSamsung Electronicsのファウンドリサービスが提供する5nmプロセスルールで製造され、CPU/GPU/DSPがいずれも大きく強化されている。
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 CPUはKryo 680へと進化。Kryo 680ではCPUはArmのCortex-A78ベースになっているが、4コアのうち1つのCPUがCortex-X1という強化版に変更されており、1MBのL2キャッシュ(ほかのコアは512KB)を搭載し、さらに動作クロックもX1だけが最高で2.84GHz(ほかは最高2.4GHz)へ引き上げられている。こうした強化によりSnapdragon 865と比較して性能が25%、電力効率が25%向上した。
 GPUはAdreno 660となり、動作クロックや実行ユニットなどのリソースが増加。従来世代に比べて35%の性能向上、20%の電力効率の改善が図られている。DSPはHexagon 780となり、整数演算ユニット、Tensorアクセラレータ、ベクターエクステンションの3つのアクセラレータがそれぞれ強化されている。
 Snapdragonシリーズでは、CPU/GPU/DSPを異種混合(ヘテロジニアス)に利用してAIを処理する仕組みが導入されており、これら3つを同時に使うことでAIの推論時の性能が大きく引き上げられる。
Snapdragon 888
 前世代のSnapdragon 865では15TOPS(Tera Operations Per Second)の性能を実現していたが、Snapdragon 888ではそれが26TOPSになっている。26TOPSという性能は、コンピュータビジョン向けに提供されている専用のアクセラレータをも上回る性能で、スマートフォン向けとしては異例の高性能と言っていいだろう。
CPU、GPU単体ではA14 Bionic搭載のiPhone 12 Proに分
しかし総合とAI性能ではSnapdragon 888が優位に
Snapdragon 888を搭載したリファレンスデザインのスマートフォン(QRD 8350-DVT2.1 MCN-65-PP484-211C)
 Qualcommは、Snapdragon 888を搭載したリファレンスデザインのスマートフォンを利用した性能として、以下のようなベンチマーク結果を公開した。
Qualcommが発表したSnapdragon 888のベンチマーク結果
Qualcommがテストした環境
 通常であれば、現地で行なわれるイベント(Snapdragon Tech Summit)などでQualcommが実機を用意し、メディア関係者がベンチマークを行なって結果を公開するのだが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大によりそれができなくなった。そこで、今回はQualcomm側が計測したデータを公開するというかたちに変更されている。
 このため、Qualcommが自ら用意した数字を引用するしかなく、本来であればきちんと実機で検証すべきだが、こうしたかたちになっていることをご了解いただきたい。なお、Qualcommは数字の正当性を証明する意味で以下のビデオを用意しているので参照されたい。
 では、この結果が正しい結果であるということを前提に、現在のハイエンドスマートフォンで計測したスコアを利用してSnapdragon 888の性能に迫っていきたい。
 今回比較に利用したのはこの秋に発売されたばかりのApple A14 Bionic搭載の「iPhone 12 Pro(ストレージ128GB)」、Snapdragon 865 Plus搭載の「Galaxy Note20 Ultra 5G(メモリ12GB/ストレージ256GB/Android 10)」の2つだ。
 テストしたのはQualcommが公開したベンチマークのうち、AnTuTu、Geekbench 5、GFXbench 5、AIMarkの4つになる。なお、AnTuTuはPlayストアでの公開が中止されているため、Galaxy Note20 Ultra 5Gでは行なっていない(厳密に言うと、セキュリティを緩めればAnTuTuのWebサイトなどから導入可能だが、今回テストしたGalaxy Note20 Ultra 5Gはセキュリティの設定が変更できない仕様だった)。
 なお、ベンチマークはQualcommのテストと合わせるために、3回テストを行ない、その平均値をスコアにしている。

【表1】テスト環境

Snapdragon 888リファレンス機

iPhone 12 Pro

Galaxy Note20 Ultra 5G

SoC

Snapdragon 888

A14 Bionic

Snapdragon 865 Plus

メモリ

12GB LPDDR5

非公表

12GB(種類非公表)

ストレージ

512GB(UFS)

128GB(種類非公表)

256GB(種類非公表)

バッテリ

3,780mAh

非公表

4,500mAh

ディスプレイ

6.65型2,340×1,080ドット

6.1型2,532×1,170ドット

6.9型3,088×1,444ドット

OS

Android(バージョン不明)

iOS 14.3

Android 10

【表2】ベンチマーク結果

Snapdragon 888リファレンス機

iPhone 12 Pro
(A14 Bionic)

Galaxy Note20 Ultra 5G
(Snapdragon 865 Plus)

AnTuTu

735,439

604,031

Geekbench- シングルコア

1,135

1,592

963

Geekbench- マルチコア

3,794

3,953

3,236

GFX Bench
Aztec Ruins(Nomal Tier)/1080p,Offscreen

86

88

59

GFX Bench
Manhattan 3.0/1080p,Offscreen

169

192

134

AIMark

217,223

91,287

107,371
 結論から言えば、CPU単体(Geekbenchのシングルコアとマルチコア)、GPU単体(GFX Bench)はA14 BionicがSnapdragon 888を上回る結果となった。
 もちろん、過去世代のSnapdragon 865 Plusは上回っており、CPUシングルコアでは約18%、マルチコアでは約17%上回り、GPUではAztec Ruins(1080p)で約46%、Manhattan 3.0(1080p)で約26%の性能向上となっている。
 GeekbenchのCPUテストではシングルコア、マルチコアはともにA14 BionicがSnapdragon 888リファレンス機の結果を上回った。GFX BenchのAztec RuinsとManhattan 3.0も同様で、A14 BionicがSnapdragon 888の結果を上回っている
 ただ、おもしろかったのはA14 Bionicの挙動で、GFXbench Manhattan 3.0のテストでは1回目が203.577だったのに対して、2回目が191.935、3回目は179.647とどんどん下がっていき、端末が熱を持っていることが触ってわかった。
 これはGPU負荷による熱でクロックを下がっているためと考えられる。この挙動は以下の記事にあるQualcommがSnapdragon 888の発表会で指摘した「競合メーカーA」(Appleのことだと思われる)と同じで、3回目のスコアはほぼSnapdragon 888の結果と変わらない。
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 それに対してSnapdragon 865 Plusを搭載したGalaxy Note20 Ultra 5Gは、3度ベンチを回してもスコアはほとんど変わらなかったし、端末も熱を持つということはなかった。
 Snapdragon 888の強みはこうしたデバイス単体よりも、総合スコアにある。AnTuTuの結果はそれを物語っており、Snapdragon 888がA14 Bionicを約22%上回っている。AnTuTuのスコアは、Snapdragon 888がCPUやGPU単体だけでなく、プラットフォーム全体での性能の引き上げを如実に示していると言えそうだ。
 また、AI推論の性能を計測するAIMarkでは、Snapdragon 888がA14 Bionicを圧倒しており、約2.38倍と大差をつけている。この点は、NPUのような推論アクセラレータだけでなく、CPUやGPUも異種混合に利用できるSnapdragonの強みが出ていると考えることができる。
Snapdragon 888を搭載したデバイスは来年第1四半期から順次投入
日本では通信キャリアの春/夏モデルのタイミングか
 このように、公開されたSnapdragon 888のベンチマークスコアを見るかぎり、その強みは総合性能とAI性能にある。CPU/GPU/DSPのすべてを使って異種混合に推論の処理を行なえるのがSnapdragonの強みだ。26TOPSというスマートフォン向けのSoCとしては異例の高性能なスペックがそれを示しているし、AIMarkなどのベンチマークからもそれが裏付けられている。
 Snapdragon 888の出荷はすでにはじまっており、2021年の第1四半期(1月~3月期)にはその搭載デバイスが登場する見通しだ。日本市場への投入時期は明らかではないが、通常は各通信キャリアの春/夏モデル(3月~4月あたりに発表)で新しいSoCを搭載したデバイスが登場することが多く、期待して待ちたい。

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投稿者 chintablog

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